■kuroyanagi taeko
言葉作家：黒柳多恵子がが生み出す「コトノハ」のページ
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「マリッジブルーの意味」

好きな人が出来るたびに、一緒に生活するのを想像するようになったのはいつからだろう。
同じ部屋に帰ってきて、一緒に食べたり、一緒に寝たり。
具体的に想像するようになったのは、多分、同じお布団に入ることを自然に考えることが出来るようになってからだろう。
つまり、セックスが、非日常的なイベントから日常的な生活の一部になってから、である。

結婚願望は人一倍あったと思う。早ければ早いほどいいと思っていた。愛されることに貪欲だった頃。
幸せが何かも分からないのにとにかく幸せになりたいとひたむきに願っていた頃。

いい大人になって、とても自然に結婚を本気で考えたことがあった。
幸せとは何かと考えながらその時々に答えも見つけながら。人一倍だった結婚願望は人並みになっていたけど。
言うまでもないけど、あった、ってことは文字通り過去形、である。

階段を駆け足で駆け登るようにとんとんと準備が進んでいく中でわたしはひとり、足が竦んでいた。
正直に言おう。怖気づいていた。
結婚は勢いとタイミングだと言うけれど、あの頃のわたしは早いうちにこのどちらとも見失ってしまっていた。
入籍の時期や引越しの時期、結婚式の場所、
目の前でてきぱきと決めていく彼の顔を見ながら、この人誰だっけ、とか、思ったりもした。
嘘みたいだけど、わたしひとり道を間違えた迷子のような気分だった。
そしていつのまにか声は届かなくなり、完全にはぐれてしまったのだ。

その過程でひとにほとんど相談することがなかったけれど結果だけ報告したひとの何人かは
「マリッジブルー、ってやつ？」
そう声をひそめて言い放ち、軽く軽蔑するように片眉をあげた。
いちいち説明する気にも、したところで分かってもらえるような気もしなかったので
「あー、そんなもんかも」なんて答えておいた。

それよりも、なんだ、マリッジブルーって。良く分からないけどとても都合のいい言葉って印象しかない。
定義は「結婚前に色々考えて不安に思うこと」…？

不安に思うことはあるでしょ。そりゃ。多かれ少なかれ、人によりけり。だって一生のことだもん。
だからって、そんな言葉で、カタカナの軽い言葉であやふやにしていいんだろうか。なんだ、この違和感は。
あぁそうか、わたしはこの言葉が好きじゃない。こんな言葉でひとくくりにしていいわけがない。

あやふやな定義の言葉を、軽々しく使う人が本当に多い。
実際、身を削る思いで、こころをすり減らしながらした、わたしの決断をこの一言で片付けられ、一気に色褪せた。
もう決めたことなのに、これでいいんだろうかと無駄に考えたりもした。

意味は間違ってないだろう。使い方も別に的外れなわけじゃない。でも、人の想いは決して一くくりには出来ないはずだ。
「結婚前」だというだけなのだ、共通点は。ただそれだけ。
結局、並べ立てる理由は沢山あるけれど、わたしの彼に対する想いが、わたしが感じた不安の前に、脆くも崩れてしまった。
それだけのことなのだ。

結婚を人生の何かのイベントと考えるから、マリッジブルーなんて言葉が生まれるのだろうと思う。
「一緒に居たいな、結婚しといたほうがふたりで居るのに何かと便利だな」、ってそれぐらいがいいんじゃないかと。
そう思えた時は今度こそ、結婚しようと思う。迷わず。

結婚が目標ではなくて、手段であり、通過点であるということ。
目の前のことだけではなく、ずっと先を見るということ。

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